Opal
私には、
言葉の色が視えます。

小さいころから、
文字に色がついて視えていました。
ひらがなにも、名前にも、
誰かが書いたメモにも。
おかあさんの「おかえり」は、
ほんのり温かい琥珀色。
友だちの「大丈夫だよ」は、
ときどき、くすんだ色をしていました。
みんなにも同じように
視えているんだと、思っていました。
でも、それを口にするたびに、
大人たちは少し困った顔をして、
「変なこと言わないの」と笑いました。
だから私は、視えていることを、
黙るようになりました。
大人になって、好きな人ができました。
はじめのころ、彼から届く「おやすみ」は、
やわらかい桜色をしていました。
通知が鳴るたびにうれしくて、
すぐに開いていました。
いつからか、その文字が
少しずつ、くすんでいくのが視えました。
返事は短くなって、
間があくようになりました。
気づかないふりをしました。
忙しいだけ。大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、
送りたかった「会いたい」を、
何度も打っては、消しました。
ある冬の夜、届いたのは
「ごめん。少しひとりになりたい」。
その一行は、
見たことがないほど、灰色でした。
私は「わかった」とだけ返して、
朝まで、トークの画面を見ていました。
送れなかった「行かないで」は、
スマホのメモにだけ残りました。
連絡は、そのまま
少しずつ途切れていきました。
誰にも話せませんでした。
色が視えることも、その夜のことも。
ひとりで抱えた夜が、どれだけ長いか。
私は、知っています。
何日もたって、そのメモを開きました。
「行かないで」の五文字が、
私の言葉の中で、
いちばん濃く光っていました。
彼の色ばかり見て、
自分の色を、見ていなかった。
それから、友だちの恋の相談に、
色で答えるようになりました。
「なんでわかるの?」と
言われることが、増えていきました。
あのとき、誰かが私の色を
言葉にしてくれていたら。
ひとりで抱えこまずに、すんだのに。
だから今は、恋に迷う人の
言葉と名前を、色で受けとっています。
あの夜の私のように、
ひとりで抱えなくていいように。
名前は、生まれてからずっと
呼ばれてきた想いが、
いちばんたまっている言葉。
だから名前には、
その人だけの一つの色が視えます。
色は、ウソをつかない。


